しまんちゅシネマ

映画ノート

アナザープラネット

今月のキーワード「地球」から、
今日はもうひとつの地球が出現する世界を描くSF『アナザープラネット』を。
これも旧ブログで記事にしましたが、今回再見し加筆しています。

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アナザープラネット
2011年(アメリカ)
原題:Another Earth
監督:マイク・ケイヒル
出演:ブリット・マーリングウィリアム・メイポーザー、ロビン・ロード・テイラー

【ストーリー】
17歳でMITに合格した秀才のローダはある夜、見たこともない惑星が空に浮かんでいるのを目撃する。それに気を取られた彼女は車の運転を誤り、妊婦と幼い子を死なせてしまう……。4年後、刑期を終えたローダは謝罪のために、被害者家族のジョンを訪ねる。だが、思わず身元を偽ってしまい、本来の関係をよそにジョンとの交流を深めていく。罪悪感に追い詰められていくローダだったが、謎の惑星は自分と同じ人間が存在する<もう一つの地球>だと知り――。(アマゾンより)



本作はクシシュトフ・キエシロフスキーを尊敬する監督が
ふたりのベロニカ』に案を得て作った作品だそうで、
もうひとつの地球(アース2)というのは、ドッペルゲンガー的に
もう一人の自分の存在するパラレルワールドという描き方なんですね。 
事故によって将来を絶たれてしまったヒロインが
アース2にいるであろう自分に思いを馳せるんです。
そこにいる自分は、どんな人生を送っているんだろうって。

この映画の面白いのは、ともに将来に希望をなくした
ローダと被害者ジョン(ウィリアム・メイポーザー)の悔いと再生、贖罪と赦しを
SFの世界を背景に描いている点。

ローダ(ブリット・マーリング)は、高校の清掃員として働いているんですが
同僚に年老いた清掃員がいて、彼がキーパーソンとなっています。
バックグラウンは語らずとも、その表情から苦しみを抱えた人だとわかる。
ある日自殺を図った老人を病床に訪ね、
ローダは彼の掌に「FORGIVE」と書くんですね。
「ゆるしなさい」
それは自分自身をなのか、他人をなのかは分からない。
けれどこれが映画のテーマでしょう。

人を許すことも、自分自身を許すことも時には難しいけれど
許すことで初めて動き出すこともある。
逆に言えば、もうひとつの地球にいる自分を求めるうちは、
自分自身を乗り越えることが出来ていないということでしょうか。
こういう、奇想天外なSFでヒューマンドラマを描くものは好みです。

ちなみにラストシーンの解釈をめぐっては、さまざまな憶測が飛ぶこととと思います。
私も理解できなかったので、監督とともに脚本を書いているローダ役
ブリット・マーリングのインタビュー記事を読んだので参考までに紹介します。
ちょっとネタばれなので、情報を入れたくない人は以下をスルーして下さい。

                  


ラストシーンで、ヒロインは自宅の前でもう一人の自分自身を見るんですね。
その後暗転、エンドクレジット
ということで、映画の中では説明がありません。

インタビューでは、インタビューワーがその意味を質問しつつ
自分なりの解釈を語るんですが、それは「最後にローダがもう一人の彼女を見るのは、
彼女が新しい人生の一歩を踏み出したことを意味しているのではないか。
何故なら、今彼女はもうひとりのローダを自分とは別の人間としてみていて、
もうひとつの地球に、自分を求めにいく必要がなくなったから」というもの。
それを聞いたマーリングは痛く感動して、
「美しい解釈をありがとう。早速マイク(監督)に伝えるわ。」と感謝しています。
そういう風に映画を観た人それぞれの解釈をして欲しいから
あえてエンディングの意味をオープンにしていないのだとも述べてますね。            

でも、そもそもは違った解釈を用意してるということでしょうね(笑)
なかかなか手ごわいですが、自分なりに意味を考えながら観るのも楽しいってことで。

月のとなりに大きな地球が浮かぶ幻想的な夜空も
ヒロインの揺れる心にリンクし、浮遊感を漂わせる映像も美しい。
サンダンス映画祭で審査員特別賞を受賞。好きな作品です。

でも、邦題「アナザー・アース」でいいやん

★★★★