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映画ノート

さよなら、アドルフ




エバート氏two thumbs up塗りつぶしから、今日はオーストラリア作品『Lore』を。
さよなら、アドルフ(2012)オーストラリア
原題:Lore
監督/脚本:ケイト・ショートランド
出演:ザスキア・ローゼンダール、カイ・マリーナ、ネーレ・トゥレブス、ウルシーナ・ラルディ Lardi、Hans-Jochen Wagner、Mika Seidel、Andr? Frid、Camera Adam Arkapaw
日本公開:2014/1・11
終戦前夜、ナチス党員のローレ一家は、銀食器とわずかな身の周りの物だけを持ち、逃げるように家を出た。村はずれの農家の離れに身を寄せる一家。しかし母は翌朝家を出たまま戻らない。農夫にも追い出されたローレは、幼い弟妹を連れ、ハンブルグの祖母の家に向かうことにした・・。

ホロコーストを描く映画は多いし、ヒトラー自身の陥落を描く映画もいくつか観たけれど、終戦ナチス党員の家族に何が起きたのかを描くものは珍しいんじゃないかな。




本作は、タイトルロールのローレが、戦後、赤ん坊を含む4人の弟妹を連れ、祖母の家を目指す、一種のロードムービーです。
一家の長女であるローレは15、6歳といったところでしょうか。
彼女は『縞模様のパジャマの少年』のお姉ちゃんがそうだったように、ナチス崇拝の教育を受けているのでしょう。身を寄せた農夫への挨拶も「ハイル、ヒトラー!」のナチス式。
彼女は当然のようにユダヤ人を嫌い卑下している。
ところが、ヒトラーが死に、ドイツがアメリカ、ロシアなどの支配下に置かれるようになると、立場は逆転。
駐留のアメリカ兵はユダヤ人を擁護し、今度はナチス側が追われる身になるんですよねぇ。
映画は、兄弟のサバイバルな旅を描くと同時に、ローレが知ることになるナチスドイツの真実を、彼女の心の変化とともに描きます。



途中、ユダヤ人の身分証明書を持つトーマスという青年が現れ、ローレたちを助けるのだけど
ローレは彼に惹かれる一方で、ユダヤ人への卑下の気持ちを拭いきれない。
全てを委ねたいと思えば思うほど、憎悪を感じてしまうという皮肉に、洗脳の恐ろしさを感じます。

それでも旅を通し、ローレは徐々に真実を知っていく。
少女の目線でナチスの罪を描くと言うのはなんとも過酷で、女性監督らしいのかなと思ったり。
末っ子を赤ちゃんとし、周囲の思いを引き出しているのもうまいところで、
誰もが赤ちゃんにだけは優しいという描写には母性を感じました。

暗く重い内容だけど瑞々しく繊細に、ナチスの落とした影を、ローレの思春期ドラマに重ね描き挙げた秀作ですね。
エバート氏の満点評価も納得。これは面白かった。


トラックバック一覧

  1. 1. 「さよならアドルフ」は一人の女の子の破壊と再生の物語です。

    • [今昔映画館(静岡・神奈川・東京)]
    • February 12, 2014 20:06
    • 今回は、新作の「さよならアドルフ」を静岡シネギャラリー2で観て来ました。改装後は初めてなんですが、座席の前後の幅ができて、その分、スクリーンの近くまで座席が配置されるようになっていました。DCPによる上映は、メジャーシネコンと同じ画質になりまして、ここな
  2. 2. さよなら、アドルフ

    • [マープルのつぶやき]
    • August 14, 2014 10:18
    • JUGEMテーマ:洋画 「さよなら、アドルフ」 原題:Lore 監督:ケイト・ショートランド 2012年 オーストリア=ドイツ=イギリス映画 109分 PG-12 キャスト:サスキア・ローゼンタール      ネイ・トゥレープス      ウルシーナ・ラルディ