しまんちゅシネマ

映画ノート

鉄道員



鉄道員(1956)イタリア
原題:IL FERROVIERE
監督:ピエトロ・ジェルミ
出演:ピエトロ・ジェルミ/ エドアルド・ネヴォラ/ ルイザ・デラ・ノーチェ/ シルヴァ・コシナ/ サロ・ウルツィ ニ/ カルロ・ジュフレ/レナート・スペツィアリ

第二次世界大戦後のイタリアを舞台に、一人の鉄道員の人生の悲喜こもごもを、幼い息子の視点で描く家族ドラマです。

戦後のイタリア、庶民の暮らしのつましさは、機関車の運転手の主人公アンドレア(ピエトロ・ジェルミ)が仕事を終え、すすだらけになった身体を小さな火しか起こらないコンロで鍋に湯を沸かし拭くところからも伺えます。



それでもクリスマスには仲間と酒場に集い、ギターを弾いて陽気に歌いあう。
誕生日ともなれば店主が酒をおごる。大らかで気前のいいイタリア人気質が心地よい。
幼い末っ子サンドロが父を呼びに酒場まで一人でいくところを見ると治安も良かったんでしょうね。
女子供が道で斬り付けられる今の日本の方がよっぽどヤバい。


けれど、そんな平和な光景も、アンドレアの娘の流産をきっかけに歯車が狂い始めます。
娘は結婚生活がうまくいかなくなり、長男は職にも就かず危ない仲間とつるんでいそう。
アンドレアは左遷の憂き目にあい酒に溺れ、家族はそれまでの確執をぶつけ合うことになり
賢く一家を支える母親でさえも、幼い息子に弱音を吐く。
人生には波があって、全てが空回りしてしまう時期というのあるのです。

でもこの映画の素晴らしいのは、そんな一家の衰退を描きながらも
ぶつかり合い、気持ちを理解し、あるいは人々の情に助けられながら
一家が再生していくさまを描いてくれていること。




一家の再生に一役買うのが、末っ子のサンドロ(エドアルド・ネヴォラ
誰もを幸せにするその笑顔で、歳の離れた姉のトラブルを彼なりに察知したり、父を喜ばせるために勉強に励んでみたり、小さなサンドロができる限りを尽くす姿が健気で、可愛らしいのですよ。
無垢な彼の存在こそが一家の宝であり、まさに鎹。


映画の中で心に残ったのは、結婚に悩む娘ジュリアに、母が電話で言う言葉
「結婚生活のうちには辛いこともあるけれど、時間が人を変えることもある。後に楽しいことや美しいことが起きれば、私たちは過去の悪いことは忘れ、許すことが出来るのよ」と。

その台詞がこの映画の全てのような気がします。
人は許しあうことができるのが素晴らしい。
昔の映画は優しく情緒がありましたね。

終盤、一家にクリスマスを祝うため、近所の人や友人がたくさん詰め掛け
ダンスを踊るシーンなど、ニマニマと頬が緩みっぱなしになりました。
切ないメロディと人々の情も心に残る珠玉の名作だと思います。



主人公のアンドレアを演じたのは監督自身だったんですね。
娘ジュリアを演じたシルヴァ・コシナも美しかった。