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映画ノート

【映画】『スリーピング ビューティ/禁断の悦び』あともう少し説明してくれたら・・




シッチェス映画祭特集 4本目
今日は「“シッチェス映画祭”ファンタスティックセレクション2012」からのセレクト
スリーピング ビューティ/禁断の悦び (2011)オーストラリア
原題:Sleeping Beauty
監督:ジュリア・リー
出演:エミリー・ブラウニング/レイチェル・ブレイク/ ユエン・レスリー / ピーター・キャロル 
 クリス・ヘイウッド/ ヒュー・キース・バーン
 
学費を稼ぐために様々な職種で働く女子大生ルーシー。ある日、より高い収入を求めて、怪しげな秘密クラブの仕事に応募する。最初は下着姿で金持ちの老人相手に給仕するだけだったが、オーナーに気に入られ、新たな仕事を任される。それは、睡眠薬を飲んで一晩ベッドで眠るだけという奇妙なもの。しかし、眠っている間に何が起こっているのか全く分からず、次第に不安が大きくなっていく…。





 オーストラリアの小説家ジュリア・リー川端康成の『眠れる美女』などを原案に
映画初監督に挑んだミステリアスなドラマです。

 眠れる美女を演じるのは白い肌が美しいエミリー・ブラウニング
ルーシーはいくつかのバイトをこなし、夜にはバーで男を誘ったりもする。
そうまでして学費を稼ぐわりには、大学の勉学にさほど力を入れてるようにも思えず
かといって仕事を楽しんでいる風でもない。
ある意味淡々と無感情に生きるルーシーが唯一穏やかな表情を見せるのがバードマン(ユエン・レスリー) と過ごす時間。
ルーシーはアル中で仕事もないバードマンを時々訪ねては酒を差し入れる。
シリアル(?)にまでウォッカをかけてあげる親切さw 凄くまずそうなんですけど。
ルーシーとバードマンは互いに現実から目を背け生きてるんですよね。。
ときにプロポーズのような真似事をしても、それが不可能なことは痛いほどにわかっているのが切ない。





 さて、ルーシーの新しいバイトに触れずに感想を書くのは不可能なので以下ネタバレです。
全く知りたくないという方はスルーでお願いします。



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ルーシーは強力な睡眠薬を飲んだあと、全裸でベッドに横たわります。
その間、老人はルーシーをもてあそぶことを許されるのですが、ただし挿入は禁止。



 副題の「禁断の悦び」に釣られた方も多いと思うけれど
禁断ではあっても、この映画に「悦び」はありません。
老人たちの行動はさまざまながら、結局は反応のない眠れる美女に落胆したり無力感を感じているように見えるのです。

 思えばこの映画には「死」が付きまといます。
老人そのものが死に近い存在であることはもちろんのこと、
感情を持たないルーシー自体も生きていながら死んでいるも同然。
映画はそんなルーシーが現実に目覚めていく姿を描いていきます。

 印象に残るのはルーシーが劇中初めて感情を表すシーン。
そんなバーチャルな世界に生きていたはずのバードマンに「限界に近づいている」と告げられたとき
ルーシーは背を向けていた現実に引き戻され、うろたえ涙を流すのです。

このあたりから彼女の中で変化が起こり始める。
彼女は自分が寝ている間に何が起きているのかが気になり
何も見ない、何も感じずに寝ていていいのかと思い始めるんですね。
列車の中で眠る婦人の流した涎をルーシーが袖でそっと拭うシーンは、
ルーシーが自分を客観的に見始めたことを意味するんでしょうか。

 見直してみて、ルーシーの無感情な日常と心の変化はがよく描かれていることがわかった。
でも何故そんな固い殻を被るようになったのかがいまいちわからないのが
初見でルーシーへの興味をそぐことに繋がってるかと思います。

副題で官能映画と煽るのもやめたほうがいいですね。
そっち期待すると「前振りが長くて退屈。ワケ分からん」ってことになりますから。

最後にルーシーは激しく慟哭します。
半死の状態だったルーシーが生まれ変わった瞬間
彼女の中で閉じ込められていた喪失の悲しみが一気に噴出したのではないかな。
ここにきて初めてバードマンへの想いを改めて感じたし、
彼女がお金に執着したのもバードマンを支えるためだったのかなと思ったり

でもそれも自分の想像の域を出ず、もう少し説明があったらなぁと思った次第です。



秘密クラブに盆栽が飾られていたり、薬入りのお茶を煎れるのに茶せんが使われていたりと
日本的なアイテムが登場するのは川端康成の原作を意識してのことかな。

ブラウニングの透明感溢れる存在も相まって目に美しい映画ではありますね。
惜しいと思うところはあるけど、好きな作品です。