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映画ノート

【映画】サウルの息子

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サウルの息子(2015)
ハンガリー
原題:Son of Saul
監督:ネメシュ・ラーシュロー
脚本:ネメシュ・ラースロー  / クララ・ロワイエ
出演:ルーリグ・ゲーザ/ モルナール・レヴェンテ/ユルス・レチン/  トッド・シャルモン /  ジョーテール・シャーンドル 

 【あらすじ
アウシュヴィッツの収容所でゾンダーコマンダーとして働くハンガリーユダヤ人のサウルは、ある日ガス室でまだ息のある少年を発見する・・


【感想
アカデミー賞外国語映画賞を受賞したハンガリー映画
1994年のアウシュビッツ強制収容所を舞台に、ゾンダーコマンダーとして働くユダヤ人サウルの孤独な狂気を描く作品です。

主人公のサウル(ルーリグ・ゲーザ)は収容所でくる日も来る日も同胞のユダヤ人をガス室に誘導し、その後の死体の片づけをしている。カメラはサウルのクローズアップをとらえ、その背景に死体処理の様子がぼやけた映像の中映し出される・・。

痩せこけた全裸の死体が引きずりまわされ片付けられるその背景の映像がホラーでねぇ。
ピンボケの撮影手法は、直接的なグロにベールをかけるから恐怖が安らぐかというと逆で、
そこで起きている一部始終をかえって想像してしまうし、匂ってくるような生々しさが半端ない。
収容所で起きていることが混乱とカオスでしかなく、ぼやけた映像はサウルの混乱そのものでもあるでしょう。

ある日、サウルは一連の作業中、ガス室で死に損ねた少年を発見。
サウルはある行動に出るんですが・・

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これが初監督作品というハンガリ―出身のネメシュ・ラーシュローは10年の構想を経てこの映画を作り出したのだとか。実際にホロコーストを体験した生存者から話を聞きリアリティにこだわったことが伺えます。

同じホロコーストもので父と息子を描いた『ライフ・イズ・ビューティフル』を「違う」と言い切る監督が
本作で描こうとしたのは怒りと混沌に満ちたホロコーストの真実。
父と息子の描写でさえ混乱の中の狂気でしかないところがむなしいんですが
誰をサウルを咎めることができるでしょうね。

以下ちょっとネタバレします




サウルはわが子と信じたその少年を宗教にのっとった方法で埋葬してやりろうと奔走する。
勿論自分の息子かどうかさえ判断できないほどサウルの精神は崩壊しているし、仲間を危険に陥れるサウルの行動は常軌を逸してもいます。
それでもそこには切なる父の思いがあり、同胞の命をガス室送りにした自身への罪の意識を考えると
彼は宗教的な救済を求めていたのかもしれない。
共感できるできないのレベルを超えた切実さがあるのですよ。

ラストシーンにサウルが見たものはなんだったんでしょうか。
彼は少年に天国に無事召されたわが子の姿を見たのか
罪を浄化され死ねることへ安堵なのか
純粋に、子供の姿に安らぎを覚えたのか・・・

メロドラマを排し「観客を泣かせない」ことを一つのコンセプトにした作品らしいですが
最後は張りつめていたものが緩んで泣けてしまった次第です。


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