しまんちゅシネマ

映画ノート

ヒトラーへの285枚の葉書


 
【原題】Alone in Berlin
あらすじ
第二次世界大戦中の1940年、オットーとアンナのクヴァンゲル夫妻は、ナチス政権下のドイツ・ベルリンで暮らしている。街はフランスへの勝利で沸き立っているが、夫妻の元に最愛の一人息子ハンスが戦死したという知らせが届く。息子を奪った総統や戦争が許せないオットーは、葉書に怒りのメッセージをしたため、街の一角にこっそり置き残すというレジスタンス運動を始める・・。

今日は『ヒトラーへの285枚の葉書』というドイツ映画。
ナチスドイツが支配する40年代初頭のベルリンで、ヒトラーを非難するメッセージを書いた葉書を街中にそっと置き続けたドイツ人夫婦の物語です。
夫婦にブレンダン・グリーソンエマ・トンプソン
はじめて夫オットー(駄洒落か)が葉書を置いた日、2人が川沿いのレストランのテーブルで休憩するシーンは印象的です。夫は小さなお酒を注文し、コーヒーをたのみかけた妻も、すぐに夫と同じお酒を注文しなおす。グラスを重ねるわけでもないけれど、見つめ合う視線だけで、夫婦の覚悟が伝わるんですよね。
 
この時夫が口にするのが
「From now on , we are alone.」
おそらく原題はここからきてるんでしょう。2人の孤独な抵抗の始まりです。
ちなみに本作では登場人物は英語で会話します。
ドイツ人の母を持ち、本作の構想に9年の年月をかけたという監督のインタビューによると、
この実話を世界中の人に知ってもらうため、ドイツ語ではなく敢えて英語を使ったとのこと。
 
白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』を思い起こさせる本作ですが、ゲシュタポが目を光らせる中、反政府的な葉書を置くのは大きな勇気が要ったことでしょう。ユダヤ人を家に匿う、戦力を助けることになる工場での仕事を、あえて怪我をしてボイコットする等、ささやかな抵抗をした人は、実は少なくはなかったんでしょう。
ゲシュタポの下で働く警部にダニエル・ブリュール
執念の捜査でオットーを追い込んでいくさまは映画に緊張を与え、観客は絶望感にもさいなまれます。しかし、オットーの葉書を読むことで警部の心が揺らいでいく様に、かすかな希望を見出しもするんですね。
ブリュールは悪に染まっていきながらも、中身の純粋さゆえに葛藤するという役をやらせたら、今や右に出るものがいないのではと思う。
おそらく警部は、自分の信念に基づいて行動するオットーにある種憧憬の念を抱いていたのだろうな。
そう思った時、主を亡くした部屋の窓から彼が逃した「鳥」の姿と重なって、涙が出た。
 
不寛容にして、正悪の判断も難しく感じる昨今。こんなときこそ、「人として誇れることなのか」を見誤らないようにしなければいけないんだと、この映画はそんなことを教えてくれた気がします。
 
積み重ねられた質素な棺を下ろすトラック、がれきを撤去する人々など、さりげないシーンに世情を無言で差し込んでくるから頭フル回転で見ないといけないけど、そこが面白い。
役者陣の素晴らしさも相まって、質の高い映画に仕上がってます。