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映画ノート

【映画】未来よ こんにちは

喪失を経験した女性の再生への一歩を描くフランス映画です。

未来よ こんにちは(2016)

L'avenir

【あらすじと感想】
高校の哲学教師ナタリーは充実した人生を送っている。
しかし著書の出版を切られたことを皮切りに、夫からは離婚を切り出され、実母の他界など思わぬ出来事が次々と起こり・・

 

子供の独立、親の介護や他界などは、50代後半の多くの人が経験する喪失です。
主人公ナタリーにはこれに離婚が加わり、自信作の著書が廃版になるというおまけつき。ずっと続くと思っていた安定した人生が自尊心を傷つけられる形で崩れ始め、孤独に苛まれるのです。

とまぁ、前半は「どうするよナタリー」と思ってしまうんですが、タイトルから想像できるようにこれはそこからの再起を描く映画・・
といっても、特別なことが起きるわけではないんですよね。

ナタリーは子供たちも独立し、知的な仕事をこなし、暮らしぶりもそれなりにハイソです。けれど、自分を変えるほどの思想を持たず、政治的な見解を述べることもしない
事なかれ主義を少しアナーキーな教え子ファビアンに指摘されるように、「安定」の代償に情熱を忘れてしまったかのようで、同世代としては共感するところも多い。

けれど、先に述べたように、ナタリーがこれらに気づき再生の道を進むというような
明快な展開にはならないところがフランス映画らしいところ。
ナタリーはあくまでマイペースに日々を過ごし、少しずつ現実を受け止める。
そこに不思議な穏やかさを感じる映画でした。

猫が象徴的に使われています。
亡くなったお母さんが飼っていたおデブの黒猫の名前はパンドラ。

完全に家猫だったパンドラがファビアンの暮らすアルプスのふもとで一夜の冒険に出るのですが、ナタリーの心配をよそに明け方ちゃんと戻ってくる。しかもナタリーのスリッパの中にネズミのお土産をチョコン。パンドラは野生に目覚めたのです。

パンドラの箱を開けると様々な不幸が飛び出すけれど、底には希望が残る
猫のパンドラはナタリーの未来のメタファーでもあるのでしょう。

寂しさを癒してくれていたパンドラを最後にナタリーが手放すのは、最初不思議に思ったけれど、パンドラをナタリーに象徴させるとすれば、それは必要なこと。
本能に目覚め自由に生きる方が、パンドラにとって幸せに違いないのです。

終盤、クリスマスを一緒に過ごしたそうにする夫をにべもなく帰してしまうのは、
一瞬冷たそうに見えるけれど、それはナタリーの夫の彼女への配慮でもあるでしょう。
別れた妻子とともにクリスマスを過ごのは、女性としたらいい気持ちはしないでしょうから。

音楽の使い方も素敵で、好きな映画ではあったのだけど
監督が30代の女性だと知って、ちょっと引っかかるところが・・・

ナタリーに「死」に関する本を読ませたり、穏やかに孫をあやすラストとか、
中年は来るべき時に備え、自分の身の丈の人生を楽しみなさいと言われているようで
ちょっと悔しい(笑)
若いファビアンとのランデブーとか、あっても別によかったんじゃない?とかね
悔し紛れに思ってしまったのはここだけの話ということで。

 

映画データ
製作年:2016年
製作国:フランス/ドイツ
監督 : ミア・ハンセン=ラブ
脚本:ミア・ハンセン=ラブ/サラ・ル・ピカール/ソラル・フォルト
出演:イザベル・ユペール
    アンドレ・マルコン
    ロマン・コリンカ
    エディット・スコブ
    サラ・ル・ピカール
    ソラル・フォルト